レビュー
「我々は世界を破壊した」
第二次世界大戦中に発足した原子爆弾開発プロジェクト、通称〈マンハッタン計画〉のリーダーを務める、天才物理学者のオッペンハイマー氏。
本作では、彼の人柄や生い立ち、原子爆弾開発に携わる上で祖国に貢献したい気持ちと、軍拡に進む世界への懸念の間に板挟みとなった、天才物理学者の生涯を描いています。
1900年代前半の欧米諸国では「ナチス・ドイツ」と「共産主義」が脅威とされ、その脅威である「ナチス・ドイツ」が核分裂技術を発見したことを受け、「ナチス・ドイツ」に先回りして原子爆弾を開発しようとマンハッタン計画が立ち上がりました。
その計画のリーダーに抜擢されたのは、量子力学などの物理学で名を馳せていたオッペンハイマー氏。本作では、実験より理論を立てることが得意なところから、女性関係まで、彼の素性を丁寧に描いています。
特に印象的だったのは、8月6日の広島への原爆投下のアメリカ側の視点。
元々は脅威である「ナチス・ドイツ」に対抗するために開発を進められていた原子爆弾が、いち早く日本を降伏させるために使用されていたこと。
しかし脅威を目にしたオッペンハイマー氏は、日本への原爆投下について「技術的には成功した」という表現に留め、水爆の開発に反対していることから、彼の罪悪感が伺えます。
本作では、天才科学者の頭脳と心を五感で感じさせる“没入体験”を目指し、「様々な観点から私たちはオッペンハイマーの精神の中に潜り込み、観客を彼の感情の旅に連れ込もうと試みた」といいます。
「祖国のために貢献したい」という想いで核分裂や核融合の分野の進歩を大きく進めた一方で、人類を核の脅威に導いてしまったオッペンハイマー氏の功績と苦悩。
それを是非体験してみてください。